タンコロと甲斐バンド
【富士急コニファーフォレスト・ジョイントライブ】
(2001年8月25日)
ボクの次男タンコロは自閉症。今現在は小学4年で随分と成長したもんだけれど、このジョイントライブの頃は、まだ4歳。兄のペイスケが年齢制限にひっかからず、甲斐のライブに参戦できるようになり、二人で甲斐のライブに行くようになった頃だ。
この頃は、家の中でも車の中でも、甲斐の曲はよく聞いていた。4歳のタンコロは、まだ言葉が出なかったけれど、甲斐については、よく「カイ!カイ!」と言って喜んでいたな。
甲斐バンドが再々結成され、久々に「BEATNIK TOUR2001」も行われた。この頃はボクも10年振り位で甲斐のライブに参戦し、ペイスケとは新宿厚生年金ライブやNHKホールライブに参戦していた。年齢制限・・・甲斐ライブは6歳未満は参加できない。自宅で、そして車の中でニコニコ笑ってるタンコロが、不憫でならなかった。
そうしたころ、甲斐バンドのジョイントライブの話が耳に入ってきた。ハウンドドッグとチャゲ&飛鳥とのジョイント。しかも富士急ハイランドのスケートリンクに近い富士急コニファーフォレストという所。野外ライブということだった。ここで気になったのは年齢制限があるかどうかというところ。色めき立っていろいろ調べてみたが、年齢制限はないらしい・・・ということが分かった。
即座に家族4人分のチケットを購入。ライブ会場が遊園地にちかいこともあって、昼位には現地について遊園地で遊ぼう、ということになった。
当時、ボクの車は車内で音楽を聴くに当たっては、CDではなくカセットテープだった。だから、自宅から現地に行くまでの間、車内で聞くための選曲をして20曲位はカセットテープに録音した。そして出発。当時の自宅から会場までは、どうしても中央高速を使わなくちゃなんないし、中央高速に出るまでだって首都高速を使うため、かなりの混雑、渋滞が予想された。そこで、中央高速にでるまで一般道を行ったんだけれど、これが予想外に込んでて、逆に中央高速に乗ってしまってからはスムーズに行くことができた。この中でどれくらいカセットテープを聞いたんだろうな・・・90分テープを用意したんだけれど、多分3回転位は聞いたんだろうな。
テープに録音した曲は、タンコロが好みそうな曲を選んで録音したつもりだったけれど、これがよかったのか、もうすぐ現地に着きそうだな・・・と思った頃、「この夜にさよなら」という曲がかかった。
後部座席でタンコロと一緒に座っていた秋桜が悲鳴をあげた。
「おとうちゃん、聴いて!聴いて!タンコロが歌ってるよ。」
なるほど、耳を澄まして聴いてみれば「星の降る夜〜一人ぼっちでえ〜♪」と、「この夜にさよなら」の出だしのところをタンコロが歌ってた。ボクは運転中だったため、そのところしか聞こえなかったけれど、秋桜によればどうもフルコーラス歌ってたらしい。
これは事件だった。
自閉症で、ほとんど言葉を持たず、カタコトの言葉しか話すことの出来なかったタンコロが、「甲斐バンド」の曲を歌ったんだよ。しかもフルコーラス。子供には難しいと思うんだよね、甲斐バンドの曲って。
もう、これだけで、この日は興奮の一日になったようなもんだった。
ジョイントライブが夕方6時に始まった。
周りは、チャゲ&飛鳥ファンが圧倒的に多く、そのチャゲ&飛鳥が一番手で登場。タンコロは目を丸くさせて廻りをキョロキョロ。
ボクもチャゲ&飛鳥は、売れた曲しか知らず、しかも歌えないんで、タンコロを抱っこしながら途中から座ってた。
二番手でハウンドドッグ登場。これはボクも学生時代はライブに行ったりしてたんで、一緒になって歌ってた。このころもタンコロはボクに抱っこしたまま。
ライブって大音響で、しかもボクの家族は前から5列目位にいたんだ。驚いたのが、その大音響の中、タンコロはボクの腕の中で眠ってたんだよね。
興味がわかないところは、徹底的に無視してる自閉症児の特徴と言うか・・・(笑)
ボクと秋桜は、もう笑うしかなかったよ(笑)
周囲のチャゲ&飛鳥ファンやハウンド・ドックファンに、タンコロは可愛がられていたけれど、それもライブが始まってしまえば、みんなステージの方を向いちゃうし、寝ようと思えば眠れるのかなあ・・・それにしてもすごいよ。
ハウンドドックがステージから消えて、しばらくインターバルがあった。そこで、タンコロを起こしにかかったんだけれど、爆睡してた。
もう仕方がないな・・・と思っていたら、甲斐バンドのステージが始まった。
オープニングの「破れたハートを売り物に」が始まり、ステージ上の甲斐バンドのメンバーが揃って、前奏と共に歌い始めた。
「破れたハー~トを、売り物にして・・・」と。
そこまで爆睡してたタンコロが、ここでひょっこり起き上がった。
起き上がったと思ったら、起き上がっただけでもビックリしてたけれど、起きてすぐ歌い始めたんだ。
目はランランと輝き、大声だしてる。
しかも、所々歌ってるんじゃなくて、フルコーラス、しっかり歌ってた。
2曲目がギタリストには答えられない「きんぽうげ」という曲。
ずーっと、歌っていたわけじゃないけれど、本当に楽しそうだった。いつのまに覚えたんだろう・・・という気持ちと、自閉症児の記憶力のすごさを改めて知らされた気がするよ。
この夜、「この夜にさよなら」は演奏されなかったけれど、それにしてもいっぱい歌ってた。周りのチャゲ&飛鳥ファンや、ハウンドドックファンが目をまん丸にしてタンコロを見つめてたっけ。
そりゃそうだよな。
甲斐バンド登場以外は、ほとんど寝てたんだもの。
帰りの車の中でも、テープの曲に沿って、なんだか一生懸命歌ってたよ。
中央高速に入り、途中SAによって休憩しようとしたんだ。
タンコロを抱っこしたまま、店に中に入っていくと、なんだか店の端の方に人だかりが・・・
そう、甲斐バンドのメンバーもライブ帰りで、SAに寄ってたんだ。
全員じゃないと思うけれど、リードギタリストの大森さんが見えた。この人だかりじゃ握手もできないよな・・・と思って、タンコロと一緒に飲み物を買いにいったんだ。
缶ジュースを買って、振り向き歩き出すと、そこには大森さんが・・・
「ボクの家族、今夜ライブに行ったんです。もちろん、この子も含めて。楽しかったですよ。」
とボクが大森さんに言うと、大森さんは
「可愛いお子さんですね。また来てね」と言ってくれた。
この夜は最高の夜となった。タンコロは自閉症だけれど、いっぱい新しい面を見せてくれて、記憶に残る夜にもなった。
ここから、タンコロと甲斐のつながりは始まったような気がするんだ。